労働者やその家族から‘申告’があると労働基準監督官は事業主に事情を聞くために出頭を求めます。その際に出勤簿、賃金台帳等の帳簿や関係書類の提出を求めるとともにその内容が適切であるかチェックします。そこで労働基準法や関係法令の違反があったと認められる場合その違反事項を羅列し、是正事項を記載した‘是正勧告書’および‘指導票’が作成され後日、再出頭あるいは訪問があり、是正事項の説明を受け、是正勧告書等の受領欄にサインを求められます。
事業主は自主的に指摘された違反事項についてを是正し、その証拠を添付し、是正報告書を作成し、期日までに提出することとなります。
是正勧告書実物はこのページ下の方にございます。
さて、世間では「是正勧告に従う義務はないので是正報告書の提出は必要ない!」と言う人がいます。それは判例が「是正勧告は労働基準監督行政を実施した際に発見した法違反に対する行政指導上の措置であり、何らの法的効果を生ずるものではない。」という判断が出ているからでしょう。たしかに従う義務はないですが、じゃ、義務ではないということではたして是正せず是正報告書を作成、提出しなくてもいいのでしょうか?答えはNOです。
是正勧告書を見てください。そこに記載された各項目の左側に労働基準法の条文の記載があります。これはこの条文に違反したということです。つまり、あなたの会社のやってきたことは違法行為だと言っているわけです。本来であれば違法行為をしたのですから送検してもいいのでしょうが、「是正勧告に従って是正したならば送検しませんよ。」と言ってくださっているわけです。
だったら今回、是正勧告が出たのを機に会社の違法状態を見直すということは会社にとってもメリットがあることなのではないでしょうか。ちなみに是正勧告が出たのにかかわらず、是正報告をしないでほったらかしにしておいて労働基準監督署に「もう会社の自主的な是正が期待できない。」と判断されたときは再度、是正勧告が出ることはなく送検されてしまう可能性が十分あります。
しかし事業主さんの中には「送検されたって起訴猶予か不起訴になるから1回くらい、大丈夫」と考えている事業主さんもいます。送検されると厚生労働省のホームページに掲載されます。これは会社の信用問題にもつながりかねません。
このようなことから総合的に考えると是正勧告に応じ、自主的に法違反状態を改善することは会社にとって利益があるといえるのではないでしょうか。
是正勧告で指摘される法違反条項で多いのは、時間外労働、休日労働に関することが多いです。例えば‘36協定の締結、監督署への届出’を怠っている場合です。これは会社が従業員に対して時間外労働(残業)命じて、行わせているのに法で規定された36協定の締結と監督署に届出をするのを怠っている場合です。こちらは従業員代表者と36協定を締結し、協定書と届出書(両方を兼ねることもできる。)を提出することになります。
次に時間外労働、休日労働に対する法で規定されたとおりに算出していない時間外・休日手当の額です。週40時間労働を超えた場合の算定、法定休日の乗率等です。特に見逃しがちなのは時間外労働割増賃金額に算入する手当が漏れていることです。算入する賃金は基本給だけでなく、法定で除外することができる手当が決まっていますのでそれ以外の手当は算定に含めなければなりません。こちらは前述の36協定の締結、届出と違い会社の財務上に影響を及ぼすことになりかねません。
法で規定された時間外労働手当よりも少ない額の手当しか払っていない場合は適切な額を支払ったという報告を証拠を添付して提出することになります。お金ことなので会社さんにとっても重大なことです。そこで「いつまでさかのぼるんだ?」という話になります。それは一時的には労働基準監督署が把握した期間となりますが、具体的には呼び出し状に書いてある期間、あるいは従業員が申告してきた期間の賃金台帳、タイムカード分ということになるでしょう。
労働条件調査の会場で頭を抱えている方(たぶん経営者の方)を見かけることがあります。これはおそらく、監督署から未払の残業代を支給し、その支払った証拠を添付して是正報告を求めるような是正勧告が出された可能性があります。これはもう、どうしようもありません。行ってしまった残業には適切な残業代を支払うしかないのです。残業代の不支給は賃金の不払いとなりますので労働基準法上の罰則も重いです。繰り返しますが支払うしかないのです。
また、未払の残業代(賃金)の消滅時効期間は3年間に延長されました。残業時間、従業員数によりますが、未払い賃金は大きな金額になってしまうかもしれません。これは会社の財務上、負担となり、会社経営にな影響を及ぶ可能性があります。このようなことにならないよう労働時間の管理、適切な賃金の計算、残業代対策といったリスク管理をしっかり行っていくことが必要だと考えます。